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ERPをやめた事例5社——よくある“落とし穴”とその対処法とは

ねじメーカーは作りかけのまま2,730万円を払い、足場のリース会社は払った約1,960万円を取り戻しました。中小企業のERPの失敗は、裁判か決算の開示でしか表に出ません。そこから5社の事例と、よくある失敗の原因、あまり言われない対処法をまとめます。

公開 2026年9月7日更新 2026年11月2日木谷 真也(株式会社Emposy 代表取締役)読了 約8分
失敗と対策 ERPをやめた事例5社 よくある“落とし穴”と その対処法とは 中小企業の事例・失敗の原因・対策 オールインワンERP開発通信 by 株式会社Emposy 裁判と開示で分かった結果 機械の据付・修理会社 約2,600万円を支払い ねじ・自動車部品メーカー 2,730万円を支払い 足場のリース会社 約1,960万円が戻る 味噌メーカー 1,173万円の請求を退けた ツインバード 決算が遅れた 判決・決算の開示より

大きな会社がERPをやめると、決算で何十億円もの損失として公表されます。中小企業ではそうなりません。上場していない会社は決算を公表しないので、失敗が表に出るのは、開発会社と裁判になったときか、上場している会社が開示したときくらいです。

5社の事例

負けた2件は会社から止め、勝った2件は開発会社が約束を守れていませんでした

5社を、判決・開示の年の順に並べます。

機械の据付・修理会社従業員130人・東京地裁 2009年

パッケージ(初期費用 約8,200万円)

要件定義を終えると、追加開発の費用が約3,200万円から約7,100万円に増えると分かり、会社が開発を止めました。

会社が負け約2,600万円を支払い

ねじ・自動車部品メーカー東京高裁 2014年

パッケージ+追加機能(計画 9,800万円)

提案の「適合率73%」を、会社は業務全体に対する割合だと受け取っていました。確認項目が125から571に増え、計画を凍結しました。

会社が負け2,730万円を支払い

足場のリース会社東京地裁 2016年

販売管理(2,310万円)

前のシステムのデータに約10万7,000件の食い違いがあり、予定の月に動きませんでした。データを移す作業は開発会社の担当と決めていました。

会社が勝ち払った約1,960万円が戻る

味噌メーカー東京地裁 2018年

販売・生産管理(総額 5,780万円)

値引きした総額で発注したあと追加の請求が重なり、生産管理を要件定義の段階で解約しました。判決は最初の総額を上限とみなしています。

会社が勝ち開発会社の1,173万円の請求を退けた

ツインバード2025年に開示

新しい基幹システム(2024年12月に稼働)

動かしたあと原価の計算が合わず、決算が遅れました。原因は稼働前のテスト不足と、要件を知る担当者の退職だと開示しています。

開示内部統制は「有効でない」

※ 裁判の4社は、判決で社名が伏せられているため業種で書いています。

5社の失敗の原因は“あるある”だった

5社でつまずいた所は、システムの開発全体でよく起きることと重なります。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が上場企業などのIT部門に毎年聞いている調査では、開発の規模が大きいほど、予算を超えた・期間が延びた割合が上がります。

予算を超えた期間が延びた10人月未満6.0%9.6%10〜50人月10.4%16.2%50〜100人月19.6%25.4%100〜500人月36.2%38.8%500人月以上42.2%47.8%
開発の規模別に、予算を超えた割合と期間が延びた割合(JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表7-1-4、2025年度の調査)

※ 人月(にんげつ):1人が1か月でこなす作業の量です。500人月は、50人で10か月かかる規模です。

予算を超えた会社に理由を聞くと(複数回答)、上位は次の4つでした。5社の事例も、どれもこの4つのどれかに当てはまります。

例外手作業紙の伝票Excel古い仕組み部署の決まり今の業務??

今の業務とシステムが、思ったより複雑

長年の例外や手作業、Excelでの調整、古いデータの食い違いは、どこにも書かれていないことが多く、作り始めてから見つかります(足場のリース会社)。

予算を超えた会社の51.4%が挙げた

計画計画にない作業

計画の段階での見落とし

業務の中身を確かめる前に、範囲・予算・期間を決めてしまいます。要件定義のあとで、費用が倍になります(機械の据付・修理会社)。

予算を超えた会社の51.0%が挙げた

最初+変更①+変更②追加の費用と期間

仕様の変更が続く

標準の機能で足りない所を足すたびに、確かめる項目も費用も増えます(ねじ・自動車部品メーカーは125→571項目。味噌メーカーは追加の請求が重なって解約)。

予算を超えた会社の48.6%が挙げた

社内?おまかせ開発会社

社内で判断できる人が足りない

何を作るかを社内で決めきれず、開発会社に任せきりになります。要件を分かる人が辞めると止まります(ツインバード)。

予算を超えた会社の31.8%(期間が延びた会社では46.5%)が挙げた

※ 割合はJUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表7-1-7。調べた会社は上場企業などが中心です。

5社の失敗から分かった、実際に効く対処法5選

契約は、要件定義で一度切る

契約を「要件定義」と「開発」の2本に分けると、1本目が終わった時点の見積を見て、続けるかやめるかを選べます。やめられるのは2本の間だけです。ねじメーカーは途中で計画を止め、納品物を受け取らないまま、その段の代金を全額払いました。区切りごとに、そこまでで払う額を書面に残します。

1本の契約要件定義 + 開発 + テスト途中で降りる出口がない2本に分ける① 要件定義② 開発・テストここで降りられる

パッケージの使用料は、要件定義のあとで払う

機械の据付・修理会社は、要件定義の前に使用料の契約を結んでいました。費用が倍になると分かって中止しても、契約はそれぞれ別に成り立っているとされ、支払いを命じられています。使用料は、見積を見てから払います。

「適合率◯%」は、何に対する割合かを書面で確かめる

提案書の「適合率73%」や「標準の機能で8割まかなえる」は、何を分母にしたかで意味が変わります。ねじメーカーは業務全体に対する割合だと考えていましたが、契約書にはその業務の流れが書かれていませんでした。分母にした一覧を、契約書に添付します。

会社が描いた業務の流れ(全体)要求の一覧ここに対して73%?提案書適合率73%何に対しての?

古いデータの食い違いを数えて、直す人を見積書に書く

足場のリース会社が勝てたのは、データの移行を開発会社の仕事と決めていたからです。決めていなければ、食い違いを誰が直すかで争いになります。見積の前に食い違いの件数を数え、「移す」「直す」の担当を見積書に1行ずつ書きます。

前のシステムのデータ食い違いを数える見積書データを移す開発会社食い違いを直す自社?食い違いの件数◯件1行ずつ書いておく

前のシステムを残して、同じ月の数字を突き合わせる

ツインバードは、稼働後に原価が合わないと分かり、システムの外で計算し直しました。切り替えたあとも前のシステムを数か月残し、同じ月の売上・在庫・原価を両方で出して比べます。ずれがあるうちは前の数字で決算し、合ってから解約します。

前のシステム売上在庫原価新しいシステム売上在庫原価原価がずれた→ 前の数字で同じ10月を両方で計算合うまで、前のシステムは解約しない

まとめ

5社の失敗は、どれも「今の業務の複雑さ」「計画の見落とし」「仕様の変更」「社内で判断できる人の不足」のどれかに当てはまりました。防ぐ手は、システムの作り方より前の取り決めにあります。

  • 契約は要件定義で一度切る
  • パッケージの使用料は、要件定義のあとで払う
  • 「適合率◯%」の分母を書面で確かめる
  • 古いデータの食い違いを数え、直す人を見積書に書く
  • 切り替えたあとも前のシステムを残し、同じ月の数字を突き合わせる

この記事を書いた会社の仕事

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出典:ソフトウェア情報センター(SOFTIC)「判例で読み解くシステム開発紛争」(東京地判平21.9.4・東京高判平26.11.26・東京地判平28.11.30) /IT・システム判例メモ「東京地判平28.11.30」 /IT・システム判例メモ「東京地判平30.10.12」 /ツインバード「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」(2025年5月29日) /日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2026」。金額は判決・開示の表記に合わせ、1万円未満を省いています(2026年11月2日時点)。

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書いた人

木谷 真也(株式会社Emposy 代表取締役)

パッケージのERPを見送り、自社の基幹システムの要件定義書を自分で書いて、毎日使っている。営業・経理・案件管理・日報・AI相談までを自社開発の基幹システム1つに集約して会社を回し、その経験をもとに中堅・中小企業の自社専用ERP開発を請けている。東京・大阪。サービスについて

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