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失敗と対策

ERPにAIを入れて困ったこと——ハルシネーションから学んだ“AIのしつけ方”

自社の基幹システムにAIを組み込んで100日。毎日すごい量を使ううちに、AIが調べもせずに数字を言い切ったり、見せたくないデータまで読めてしまったり、いろいろ起きました。実際の数字と一緒に、正直に書いていきます。

公開 2026年9月10日更新 2026年11月2日木谷 真也(株式会社Emposy 代表取締役)読了 約7分
失敗と対策 ERPにAIを入れて ハルシネーションから 学んだ“しつけ方” 中小企業が自社ERPにAIエージェントを組み込んだ100日 オールインワンERP開発通信 by 株式会社Emposy AIの回答 9,174件を数えた 検索した 調べず断定 怪しい旗 639件 / 1,030件 / 1,282件 怪しい回答は約14% 賢さより「気づける仕組み」

株式会社Emposyでは2026年7月から、自社の基幹システムにAIエージェントを組み込んで、営業・経理・案件管理・日報まで毎日の仕事に使っています。導入から約100日。社員がAIに頼んだ仕事は1万2千件を超え、10月は1日あたり約250件になりました。

これだけ使い込むと、困ったことも次々に起きます。

木谷 真也
木谷 真也代表取締役
大津山 泰成
大津山 泰成取締役CTO
Emposyの社内で、実際に起きたAIの事故を集めました社員が毎日AIに頼んできた仕事の記録(本番のデータベース)から、AIが調べずに言い切った回答を1件ずつ数えました。数字はすべて2026年10月30日時点の実数です。

数えてみると、この100日間のAIの回答9,174件のうち、社内データを一度も調べずに、数字や「ない」を言い切った回答が1,282件(約14%)ありました。中身はこう分かれます。

言い切った回答1,282件 調べずに、数字を書いた941件(73%)調べずに「ない」と答えた252件(20%)両方89件(7%)
AIの回答9,174件(2026年7月19日〜10月30日・本番の実数)のうち、社内データを一度も調べずに言い切った1,282件の内訳

いちばん多いのは、調べもせずに数字を書いたケースでした。ここからは、実際に起きた事故を順に紹介します。

知ったかぶり①:社内データを見ずに、数字を言い切る

AIが調べてもいないことを、事実のように答えてしまう。これが「ハルシネーション」、この記事でいう知ったかぶりです。

問題:見ていないのに、見たような口ぶりで答える

最初に起きたのは、社内データを見て答えているはずのAIが、実は見ていなかったケースでした。「今月の請求は◯件です」と言い切っているのに、記録をたどるとデータベースを一度も検索していない。数字を聞かれているのに、記憶と雰囲気で答えていたんです。

  • データベースを見ないまま、金額とグラフを答えるAI
    検索0回で数字を答えた
  • 中身が「?」の資料を前に、自信満々に言い切るAI
    中身を見ずに言い切った
  • 書類の詰まったフォルダがあるのに「ない」と答えるAI
    あるのに「ない」と答えた

どれくらいあったのか、回答を全部数えてみました。

AIの回答9,174件を、社内データを検索したかどうかで分けたもの2026年7月19日〜10月30日・本番の実数
6391,0307,505(中略)
639件 社内データを検索して答えた 1,030件 検索せずに言い切った 7,505件 検索も断定もしていない(相談・下書き・雑談)

※ 灰色は件数が多いため、途中を省いて短く表示しています。緑と赤の長さは件数どおりです。

緑と赤だけで比べると、6割以上が「調べずに言い切った」側でした。しかも、調べても調べなくても、AIの口ぶりはまったく同じ。読む側からは見分けがつきません。

対策:怪しい回答に、自動で旗を立てる

全部を人が確かめるのは無理なので、回答を1件ずつ記録して、上の3つのどれかに当たったら怪しい旗を立てることにしました。

  • AIの回答が1件ずつ台帳に記録されていく
    回答を1件ずつ記録
  • 回答を順に点検し、当てはまった1件に旗を立てる
    当てはまれば自動で旗
  • たくさんの回答のうち、旗の付いた1件だけを確かめる
    人は旗の付いた回答だけ確かめる

知ったかぶり②:社内の正しい計算を知らず、自前で答える

「この事業の採算を試算して」と頼んだら、AIがその場で自前の計算を始めました。社内にはちゃんと正しい試算の処理があるのに、AIはその存在を知りませんでした。間違いではないけれど、社内の正式なやり方とは違う数字が出てきます。

問題:機能の一覧を、人が手で書き足していた

原因は、「ERPで何ができるか」を手書きの一覧でAIに教えていたこと。新しい機能を作るたびに、一覧への書き足しを忘れていました。

  • AIが電卓とメモで、自分で計算を始める
    AIが自前で計算した
  • 正しい処理の箱が、ほこりをかぶって使われていない
    正しい処理は使われないまま
  • 新しい機能が、一覧に書き足されないまま外に置かれている
    一覧への書き足し忘れ

対策:一覧をプログラムから自動で作る

人が覚えて書き足すのをやめ、次の3つの仕組みにしました。

  • プログラムの画面に、使い道の札を付ける
    プログラムに「印」を付ける
  • 札の無いプログラムが、点検のゲートで止められる
    印が無ければ、点検で止まる
  • 札の付いたプログラムから、一覧が自動で組み上がる
    会話のたびに一覧を作る

権限の渡しすぎ:AIが読めるデータは、131個中14個しか守られていなかった

2026年9月9日、AIが読めるデータを全部洗い出してみました。予実・案件・利益・請求・給与まで含めて131個。そのうち、AIから守られていたのは14個だけでした。

問題:画面で見られない社員も、AIに聞けば中身を読めた

ERPの画面には、役職ごとに見てよい範囲が決めてあります。ところがAIの側は、守る物を1つずつ登録したデータしか止められない作りでした。

登録は、データを作った人が覚えていれば足すやり方です。予実・案件・利益・請求・会議の記録など、あとから作ったデータは登録されないまま残っていました。そのため、画面では見られない社員でも、AIに聞けば中身を読めてしまう状態でした。

  • 一覧のうち上の2行にだけ鍵が付いている
    守る物を1つずつ登録
  • 新しく作ったフォルダの鍵が、開いたままになっている
    新しいデータは鍵なし
  • 画面では見られないのに、AIが書類を差し出している
    見られない人にもAIが答えた

対策:全部に鍵をかけて、要る物だけ開ける

守る物を1つずつ登録するやり方を、逆にしました。

名簿 事業名 読める AI
図1 AIが読めるデータ131個の、今の鍵のかけ方

こんな事故も…

ほかにも、こんなことがありました。

9/179/189/19旅行(設定は「空き」)ランチ交流会

旅行中の社員に、ランチ交流会を入れた

2026年9月10日

役員の「旅行 9/17〜9/19」は、Googleカレンダー上で「予定なし(空き)」の設定でした。AIはその設定だけを見て空いていると判断し、旅行中の9月18日に予定を入れてしまいました。

自動返信見込み客自動返信

取引先の自動返信が、見込み客の一覧に混ざった

電話をかける手前まで進んだ

AIが判定できなかったメールを、通す側に倒していました。その結果、「配信専用のため返信を承ることができません」という自動返信が、見込み客として一覧に上がってきました。

リード0件≠実際の申込12件

毎朝「リード0件」と誤報し続けた

実際は12件取れていた

広告の成果をAIが毎朝点検していましたが、申込が外部サイトで完結する事業では件数の数え方が違いました。「リード0のまま19,297円を消化」という警告が、毎朝出続けました。

AIのしつけ方:AIに計算させず、ERPに登録した処理を選ばせる

いろいろ起きた末に行き着いたのが、「AIに賢く考えさせない」やり方です。見積・請求・採算のように、社内で正しいやり方が決まっている計算は、先に処理として作っておく。AIには、その中からどれを動かすかを選ばせるだけにしました。いま登録している処理は113個です。

AIに頼んだときに、中で起きていること 123 社員が頼む AIは処理を選ぶだけ 計算は処理が行う 今月の請求は? チャットで話しかける 請求の集計 採算の試算 入金の突合 ほか110個 113個から1つ選ぶ ERPのデータ 請求の一覧 決まったやり方で計算
図2 AIの仕事は「どの処理を動かすか選ぶ」ところまで。AIに計算はさせず、正しいやり方が入った処理に任せる。

この記事を書いた会社の仕事

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記事に書ききれなかった事例や、AIに任せる範囲の線引き、怪しい応答に気づける形まで、自分たちで運用しているものをそのままお話しします。60分の無料相談で、いま使っているツールと、いちばん手間のかかっている作業を教えてください。しつこい営業はしません。

出典:当社の基幹システムの本番データベース(2026年10月30日時点。AIの回答9,174件〔2026年7月19日〜10月30日〕・検索して回答639件・検索なしの断定1,030件・怪しい旗1,282件・登録処理113個・AIへの依頼12,871件〔2026年7月11日〜〕)/AIが読めるデータの監査(2026年9月9日)/開発リポジトリの更新履歴(2026年7月11日〜10月30日)。取引先名・個人名・人数は伏せています。

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書いた人

木谷 真也(株式会社Emposy 代表取締役)

自社の基幹システムの要件定義書を自分で書き、AIエージェントを組み込んで毎日使っている。営業・経理・案件管理・日報・AI相談までを自社開発の基幹システム1つに集約して会社を回し、その経験をもとに中堅・中小企業の自社専用ERP開発を請けている。東京・大阪。サービスについて

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